いつの間にか会話は終りを告げた。月夜はソファーに座り込んで外を眺めた。外は青々
とした草花が見えた。
「そういえば、おまえさ、節句の生まれなんだな」
 ふと、月夜のほうから話しかけてきた。珍しいような感じがして夕香は首をかしげた。
「そうだけど、なに?」
「いや、俺も、そういえば節句生まれだったなって。男なのに陽が重なる日に生まれてと
かなんだか、親父が何言ってたなって思い出しただけだよ」
 肩をすくめる月夜に夕香は首をかしげて気になっていた疑問を口に出した。
「ねえ、月夜の誕生日っていつなの?」
 その問に深く溜め息をついて窓の外に視線を向けた。
「九月九日。重陽の節句の日だ」
「来月?」
「ああ」
 穏やかに月夜が頷き目を伏せた。しばらく夕香が黙りこくり首をかしげると夕香が月夜
をまっすぐ見ていた。
「誕生日近いならやらないでよ」
 その言葉に首をかしげたまま瞬きをしていると、夕香は恥ずかしそうに頬を染めてそっ
ぽをむいていた。その表情にまた首をかしげた。
「あたしはあんたに祝ってもらったんだからお返しがしたいの」
 その言葉に月夜は虚を突かれた。目を見開くと夕香をじっと見た。
「だめ?」
 上目遣いに月夜を見返すと月夜はしばらく目を瞬かせる夕香を見た。
「何よ」
 すっとまっすぐ見ると月夜はぎくりと顔を少し上げて視線をそらしてそっぽを向いた。
「いや、初めていわれた、そんな事。……熱でも出したか?」
「うっさい」
 月夜の言葉に夕香は真っ赤になって月夜のことを思い切り殴った。その力があまりにも
強かった為、頭ごと床に落ちた。強か打った額に手を当てて低く唸り夕香を見た。
「だめなの?」
「…………わかった。とりあえず、任務は受ける。大丈夫だろう。長引かせない。九日に
は帰ってくるから」
「本当に?」
 潤んだ目で上目遣いに見られて月夜は目を見られなくなった。視線を下に向けて頷いた。
 そして何もいえないまま月夜は部屋を去り正式任務登録し明日発つことになった。そし
て部屋に帰り夕香を見ると何も言わないでそっと抱きすくめた。
「月夜?」
「帰ってくるからな」
 宣言に驚きながら自分より高い位置にある肩に額を押し付けた。そして頷いて抱き返し
た。
「帰ってきたらさ、一緒に遊ぼ?」
「ああ」
 月夜は穏やかにうなずいて夕香の髪を撫でた。久しぶりだった。ここまで穏やかにいら
れるのは。絶対に帰ってこなければならないと思えるのは。
 とりあえず、夜ご飯を作るためにキッチンに向かった月夜は夕香に気づかれないように
胸に手を当てて目を閉じた。



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